1. 双極性障害とは

双極性障害(従来の「躁うつ病」)とは、気分が落ち込み意欲が低下するうつ病エピソードと、気分が高揚して非常に活動的になる躁病エピソードまたは軽躁病エピソードを繰り返す気分障害です。

気分、活動性、エネルギーレベルの極端な変動が見られ、これらの変動は日常生活、対人関係、仕事や学業に著しい影響を及ぼします。

うつ病との違い

双極性障害は、うつ病エピソードだけでなく、躁病エピソードまたは軽躁病エピソードを伴うことが特徴です。気分が高揚している時は受診を考えないため、患者さんはうつ状態の時に来院することが多く、「うつ病」と誤診されることがあります。しかし、治療法や使用する薬が異なるため、慎重に診断する必要があります。

診断の難しさ

過去の躁病エピソードや軽躁病エピソードについて、本人は「これが自分の本来の状態だ」ととらえがちで、自覚がありません。周囲も「少しテンションが高いかな」「もともとの性格だろう」と受け取りがちです。正しい診断のためにも、受診の前に家族など日々接する人と過去の状態について振り返ることが重要です。

2. 双極性障害のタイプ

双極Ⅰ型障害

少なくとも1回の躁病エピソードを経験したことが診断基準です。通常はうつ病エピソードも経験しますが、必須ではありません。

特徴

  • 躁病エピソードは重度で、社会的・職業的機能に著しい障害をもたらす
  • 入院が必要になることもある
  • 精神病症状(妄想、幻覚)を伴うこともある
  • 躁病エピソード中の行動が重大な結果をもたらすことがある

躁病エピソードの影響

  • 多額の負債(買い物、投資など)
  • 人間関係のトラブル
  • 離婚や失職
  • 法的問題

双極Ⅱ型障害

少なくとも1回の軽躁病エピソードと1回以上のうつ病エピソードを経験したことが診断基準です。躁病エピソードは経験していません。

特徴

  • 軽躁病エピソードは比較的軽度で、社会的機能の著しい障害はない
  • 外来での治療が可能
  • 精神病症状は伴わない
  • うつ病エピソードが主な苦痛の原因

診断の課題

  • 軽躁病エピソードは本人も周囲も「調子が良い」と感じやすい
  • うつ病と誤診されやすい
  • 過去の軽躁病エピソードの聴取が重要

気分循環性障害

少なくとも2年間(子どもでは1年間)にわたって、軽躁症状とうつ症状が繰り返し現れる状態です。症状は躁病エピソード、軽躁病エピソード、うつ病エピソードの診断基準を満たすほどではありません。

特徴

  • 気分の変動が慢性的に続く
  • 症状の程度は比較的軽度
  • 双極Ⅰ型またはⅡ型に発展するリスクがある

3. 躁病エピソードの症状

躁病エピソードは、気分が異常に高揚した状態が少なくとも1週間持続し(または入院が必要なほど重度)、以下の症状のうち3つ以上(気分が易怒的な場合は4つ以上)が認められます。

気分と認知の変化

  • 気分の著しい高揚、興奮
  • 易怒性の亢進(怒りっぽい)
  • 自尊心の肥大(自分が偉くなったように感じる)
  • 観念奔逸(いろいろな考えが次々と頭に浮かぶ)
  • 注意散漫(すぐに気が散る)

行動と活動の変化

  • 睡眠欲求の減少(3時間睡眠で十分と感じる)
  • 多弁(いつもより口数が多い、話し続ける)
  • 目標指向性の活動増加(仕事、学業、性的活動)
  • 精神運動焦燥(じっとしていられない)
  • 快楽的活動への過度の没頭(買いあさり、性的無分別、無謀な投資など)
躁病エピソードの深刻さ

躁病エピソードは、社会的または職業的機能に著しい障害をもたらし、入院が必要になることもあります。躁病エピソード中の判断力の低下により、多額の負債、人間関係の破綻、失職などの深刻な社会的損失が生じることがあります。

4. 軽躁病エピソードの症状

軽躁病エピソードは、躁病エピソードと同様の症状が少なくとも4日間持続しますが、重症度は低く、社会的・職業的機能の著しい障害はなく、入院の必要もありません。

躁病エピソードとの違い

  • 期間:最低4日間(躁病は7日間)
  • 重症度:比較的軽度
  • 機能障害:著しい障害はない
  • 入院:必要なし
  • 精神病症状:なし(あれば躁病エピソード)
軽躁病エピソードの見過ごされやすさ

軽躁病エピソードは、本人にとっては調子の良い状態であり、周囲も「いつもより元気だな」程度に感じることが多いです。そのため、医師に報告されず、双極Ⅱ型障害の診断が遅れることがあります。過去に「異常に調子が良かった時期」がなかったか、家族と一緒に振り返ることが重要です。

5. うつ病エピソードの症状

双極性障害のうつ病エピソードは、単極性うつ病(いわゆる「うつ病」)のうつ病エピソードと症状は同じです。以下の症状のうち5つ以上が2週間以上ほぼ毎日続き、そのうち少なくとも1つは①または②である必要があります。

気分と感情

  • ①抑うつ気分(1日中気分が憂うつ、悲しい、空虚な気持ち)
  • ②興味・喜びの喪失(何事にも興味が持てない、楽しめない)
  • 無価値感、過度の罪悪感(自分には生きる価値がないと思う)
  • 死についての反復思考、自殺念慮

身体と認知機能

  • 食欲の低下または増加、体重の減少または増加
  • 不眠または過眠
  • 精神運動焦燥または制止(落ち着きがない、または動作が鈍い)
  • 疲労感、気力の減退
  • 思考力や集中力の減退、決断困難

6. 混合状態

躁病エピソードまたは軽躁病エピソードからうつ病エピソードへの移行期、またはその逆の移行期には、両方の症状が混在した状態が現れることがあります。これを混合状態(混合性の特徴を伴う)と呼びます。

混合状態の特徴

  • 抑うつ気分と気分の高揚が同時に存在
  • 焦燥感が強い
  • 易怒性が高い
  • 不眠と疲労感が共存
  • 自殺リスクが特に高い
混合状態の危険性

混合状態は、自殺のリスクが最も高い状態の一つです。抑うつ気分がありながら、エネルギーレベルが高いため、自殺を実行に移す危険性が高まります。混合状態が疑われる場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。

7. 治療方法

治療の目標

双極性障害の治療目標は、以下の3点です:

  1. 急性期症状の改善:現在の躁病エピソードまたはうつ病エピソードを治療
  2. 気分の安定化:気分の上がり下がりを安定させる
  3. 再発予防:新たなエピソードの発生を防ぐ
再発予防の重要性

双極性障害は再発性の高い疾患で、うつ病エピソードや躁病エピソードが一度だけで済むことは、まずありません。治療を受けずに放置すると、症状自体が自然回復することがあっても、その間に生じた社会的損失(多額の負債、人間関係のトラブル、離婚、失職など)の回復は容易ではありません。ただし、再発は治療により予防できます。

1. 薬物療法

双極性障害の治療の基本は薬物療法です。気分安定薬をメインに、抗精神病薬、必要に応じて抗うつ薬を状態に応じて使い分けます。

気分安定薬

双極性障害の第一選択薬です。躁病エピソード、うつ病エピソードの治療と再発予防に使用されます。

  • リチウム(リーマス):最も歴史が長く、効果が実証されている。自殺予防効果も
  • バルプロ酸(デパケン):躁病エピソードに有効
  • カルバマゼピン(テグレトール):リチウムが効かない場合に
  • ラモトリギン(ラミクタール):双極Ⅱ型のうつ病エピソードに特に有効

抗精神病薬

躁病エピソード、特に精神病症状を伴う場合に使用されます。

  • オランザピン(ジプレキサ)
  • クエチアピン(セロクエル)
  • アリピプラゾール(エビリファイ)

抗うつ薬

抗うつ薬の注意点

双極性障害のうつ病エピソードに抗うつ薬を使用する場合は、慎重さが必要です。抗うつ薬単独での使用は、躁転(うつ状態から躁状態に急激に切り替わること)を引き起こすリスクがあります。使用する場合は、必ず気分安定薬と併用します。

2. 薬物療法を受ける際の注意点

根気よく飲み続けることが重要

双極性障害の薬物療法は、長期的な継続が必要です。以下の点に注意してください:

  • 定期的な受診:2週間〜1ヶ月に1回は診察を受ける
  • 指示通りの服薬:自己判断で中断しない
  • 血中濃度の測定:リチウムなどは定期的な血液検査が必要
  • 副作用の報告:副作用が現れたら早めに医師に相談
勝手な断薬の危険性

少し良くなったからといって、勝手に薬をやめてしまうと、再発を繰り返したり、最悪の場合は自殺につながることもあります。症状が改善しても、再発予防のために薬を飲み続ける必要があります。

3. 心理社会的治療

薬物療法に加えて、以下の心理社会的アプローチも有効です:

心理教育

  • 双極性障害についての理解を深める
  • 症状の早期サインを認識する
  • 薬物療法の重要性を理解する

認知行動療法(CBT)

  • 否定的な思考パターンの修正
  • 問題解決スキルの習得
  • ストレス対処法の学習

対人関係・社会リズム療法(IPSRT)

  • 生活リズムの安定化
  • 対人関係の改善
  • 社会的役割の調整

家族療法

  • 家族の疾患理解の促進
  • コミュニケーションの改善
  • 家族のストレス軽減

8. 再発予防

治療の継続

双極性障害は再発することの多い疾患です。治療により改善し、症状が見られなくなっても、再発予防のために治療を続ける必要があります。

再発予防のポイント

1. 定期的な受診と服薬

月に1〜2回、外来を受診し、処方された薬を飲み続けます。それ以外は普通に生活できます。

2. 自己モニタリング

  • 症状の早期サインに注意:うつ病エピソードや躁病エピソードの兆候が出ていないか
  • 睡眠パターンの変化:睡眠の変化は気分エピソードの最も早い兆候の一つ
  • ストレスの自覚:日々の生活でストレスになっていることはないか
  • 気分日記:毎日の気分、睡眠時間、活動を記録する

3. 生活リズムの維持

以下を一定に保つことが重要です:

  • 起床時間と就寝時間
  • 食事の時間
  • 仕事や家事の時間
  • 運動の習慣
生活リズムと双極性障害

双極性障害の方は、生活リズムの乱れが気分エピソードのきっかけになりやすいことが知られています。規則正しい生活を心がけることで、再発リスクを減らすことができます。

4. ストレス管理

  • 過度のストレスを避ける
  • リラクゼーション技法の活用
  • 趣味や楽しみの時間を持つ
  • サポートネットワークの維持

5. アルコールや薬物の回避

アルコールや違法薬物は、症状を悪化させ、薬の効果を妨げるため、避ける必要があります。

治療中断が最も起こりやすい時期

軽躁状態の時こそ注意

治療継続は再発予防のために重要ですが、治療中断が最も生じやすいのは軽躁状態の時です。好調で快適な日が続くため、「もう完全に治った」と思って治療が中断されがちですが、それが後のうつ病エピソードや躁病エピソードの再発につながってしまいます。好調で治ったと思っても、実はそれが軽躁状態のこともあります。自己判断で治療を中断しないことが何よりも大切です。

9. 生活上のアドバイス

本人へのアドバイス

  • 疾患を理解する:双極性障害について学び、自分の症状パターンを知る
  • 早期サインを認識する:気分エピソードの初期症状を把握し、早めに対処
  • 医療チームと協力する:医師、看護師、薬剤師と良好な関係を築く
  • サポートを求める:家族、友人、サポートグループの助けを受け入れる
  • 現実的な目標設定:過度に高い目標は躁状態のサインかもしれない

家族・周囲の方へのアドバイス

  • 疾患を学ぶ:双極性障害について正しい知識を持つ
  • 症状のサインを知る:気分エピソードの早期サインに気づけるようにする
  • サポートする:治療を続けるよう励まし、定期受診に協力する
  • 批判を避ける:「気の持ちよう」などの言葉は避ける
  • 境界線を設定する:躁状態での無謀な行動には明確な限界を設ける
  • 自分自身もケアする:家族自身のストレス管理も重要

緊急時の対応

すぐに医療機関へ

以下のような場合は、すぐに医療機関を受診してください:

  • 自殺念慮や自殺計画がある
  • 幻覚や妄想がある
  • 極端な興奮状態が続く
  • 全く眠れない日が続く
  • 危険な行動(無謀な運転、多額の浪費など)

10. 社会的支援

利用できる制度・サービス

精神障害者保健福祉手帳

一定の精神障害の状態にあることを認定し、各種支援を受けやすくする制度です。

  • 税制上の優遇
  • 公共交通機関の割引
  • 就労支援

自立支援医療制度

継続的に医療を必要とする方の医療費負担を軽減する制度です。

障害年金

一定の障害の状態にある方に支給される年金です。

就労支援

  • 就労移行支援事業所
  • 就労継続支援事業所
  • 障害者雇用

相談窓口

  • 精神保健福祉センター:都道府県・政令指定都市に設置
  • 保健所・保健センター:地域の相談窓口
  • 医療機関:精神科、心療内科
  • 患者会・家族会:当事者同士のサポート