精神疾患について

精神疾患は、思考、感情、行動のパターンに著しい変化をもたらし、日常生活に支障をきたす状態を指します。これらは脳の機能に関わる医学的な状態であり、適切な治療とサポートによって改善が可能です。

世界保健機関(WHO)によると、世界中で8人に1人が何らかの精神疾患を経験しており、決して特別なことではありません。精神疾患は誰にでも起こりうるものであり、適切な理解と支援が重要です。

重要なポイント

精神疾患は「気の持ちよう」や「甘え」ではなく、脳の機能に関わる医学的な疾患です。適切な診断と治療により、多くの方が回復し、充実した生活を送ることができます

診断基準システム

精神疾患の診断に用いられる国際的な分類体系

主要な診断分類システム

精神疾患の診断には、世界的に標準化された分類システムが使用されています。主要なものとして、アメリカ精神医学会のDSMと、世界保健機関のICDがあります。

DSM-5(DSM-5-TR)
  • 作成機関:アメリカ精神医学会(APA)
  • 最新版:DSM-5-TR(2022年)
  • 特徴:臨床診断を重視、詳細な診断基準
  • 用途:世界中で臨床・研究に使用
  • 構成:神経発達的側面から配列
ICD-10 / ICD-11
  • 作成機関:世界保健機関(WHO)
  • 最新版:ICD-11(2022年発効)
  • 特徴:統計・保険請求を重視
  • 用途:日本の診療報酬制度で使用
  • 構成:全疾病の分類体系の一部
DSMとICDの関係

両者は互換性を持ちながらも、目的が異なります。DSMは臨床診断に特化し、ICDは疾病統計や保険請求を含む広範な目的で使用されます。日本の医療現場では、診断はDSM-5を参考にしながら、診療報酬請求にはICD-10/ICD-11コードを使用することが一般的です。

DSM-5 精神疾患分類

1.神経発達症群

Neurodevelopmental Disorders

発達期に発症し、個人的、社会的、学業的、職業的な機能に障害をもたらす一連の状態です。知的能力、コミュニケーション、学習、運動、社会的相互作用などの領域に影響を及ぼします。

  • 知的能力障害群(知的発達症) 概念的、社会的、実用的な適応機能の障害
  • コミュニケーション症群 言語、発話、社会的コミュニケーションの障害
  • 自閉スペクトラム症(ASD) 社会的コミュニケーションの障害、限定的反復的行動パターン
  • 注意欠如・多動症(ADHD) 不注意、多動性、衝動性を特徴とする
  • 限局性学習症(学習障害) 読字、書字、算数などの特定の学習技能の困難
  • 運動症群 チック症、発達性協調運動症、常同運動症など

2.統合失調症スペクトラム障害

Schizophrenia Spectrum and Other Psychotic Disorders

妄想、幻覚、まとまりのない思考や発話、異常な行動など、現実検討能力の障害を伴う精神病性症状を特徴とします。社会的・職業的機能に著しい影響を及ぼします。

  • 統合失調症 陽性症状(幻覚・妄想)と陰性症状(感情鈍麻・意欲低下)
  • 統合失調感情障害 統合失調症の症状と気分障害の症状が併存
  • 妄想性障害 1つ以上の妄想が1ヵ月以上持続
  • 短期精神病性障害 精神病性症状が1日以上1ヵ月未満持続

3.双極性障害および関連障害群

Bipolar and Related Disorders

躁病エピソードまたは軽躁病エピソードとうつ病エピソードを特徴とする気分障害です。気分、活動性、エネルギーレベルの極端な変動が見られます。

  • 双極Ⅰ型障害 少なくとも1回の躁病エピソード(通常はうつ病エピソードも)
  • 双極Ⅱ型障害 軽躁病エピソードと1回以上のうつ病エピソード
  • 気分循環性障害 2年以上にわたる軽躁症状とうつ症状の繰り返し

4.抑うつ障害群

Depressive Disorders

持続的な悲しみ、空虚感、興味や喜びの喪失を主な特徴とする気分障害です。エネルギー低下、睡眠障害、食欲変化、集中困難などを伴います。

  • うつ病(大うつ病性障害) 2週間以上の抑うつ気分または興味・喜びの喪失
  • 持続性抑うつ障害(気分変調症) 2年以上の慢性的な抑うつ症状
  • 月経前不快気分障害 月経前の著しい気分変動と身体症状

5.不安症群

Anxiety Disorders

過度な恐怖と不安、それに関連する行動障害を特徴とします。日常生活に著しい支障をきたし、回避行動が見られることが特徴です。

  • 分離不安症 愛着対象との分離に対する過度の不安
  • 選択性緘黙 特定の社会的状況で話せなくなる
  • 限局性恐怖症 特定の対象や状況に対する強い恐怖
  • 社交不安症(社交不安障害) 社会的状況での過度の不安と回避
  • パニック症(パニック障害) 予期しないパニック発作の反復
  • 広場恐怖症 逃げられない状況や助けが得られない状況への恐怖
  • 全般不安症(全般性不安障害) 多様な出来事に対する過度で制御困難な心配

6.強迫症および関連症群

Obsessive-Compulsive and Related Disorders

繰り返される侵入的思考(強迫観念)と、それに対する反復的行動(強迫行為)を特徴とします。過度の懸念、繰り返し行動、身体への集中などが見られます。

  • 強迫症(強迫性障害) 強迫観念と強迫行為による著しい苦痛
  • 醜形恐怖症 身体外観の欠陥への過度の懸念
  • ためこみ症 所有物を捨てることが困難で過度に蓄積
  • 抜毛症 自分の毛を繰り返し抜く行動
  • 皮膚むしり症 自分の皮膚を繰り返しむしる行動

7.心的外傷およびストレス因関連障害群

Trauma and Stressor-Related Disorders

トラウマ体験やストレスフルな出来事への曝露後に発症する障害です。侵入症状、回避、認知と気分の変化、覚醒と反応性の変化などが特徴です。

  • 反応性愛着障害 幼少期の不適切な養育による対人関係の障害
  • 脱抑制型対人交流障害 見知らぬ人への過度に親密な接近行動
  • 心的外傷後ストレス障害(PTSD) トラウマ体験後の侵入症状、回避、認知・気分の変化
  • 急性ストレス障害 トラウマ後3日~1ヵ月以内の症状
  • 適応障害 ストレス因への反応としての情緒的・行動的症状

8.解離症群

Dissociative Disorders

意識、記憶、同一性、感情、知覚、身体表象、運動制御の正常な統合の破綻を特徴とします。現実感の喪失や自己感の変化が見られます。

  • 解離性同一症 2つ以上の異なる人格状態の存在
  • 解離性健忘 重要な個人情報の想起不能
  • 離人感・現実感消失症 自己や外界に対する現実感の喪失

9.身体症状症および関連症群

Somatic Symptom and Related Disorders

身体症状への過度の注目、それに関連する思考、感情、行動を特徴とします。医学的に説明できない、または釣り合わない身体症状を訴えます。

  • 身体症状症 身体症状への過度の思考、感情、行動
  • 病気不安症 重篤な病気に罹患しているという過度の心配
  • 変換症(転換性障害) 随意運動や感覚機能の変化

10.食行動障害および摂食障害群

Feeding and Eating Disorders

食行動の持続的な障害で、身体的健康や心理社会的機能に著しい障害をもたらします。体重や体型への過度のこだわりが特徴です。

  • 神経性やせ症(拒食症) 極端な食事制限、著しい低体重、体重増加への恐怖
  • 神経性過食症(過食症) 過食エピソードと不適切な代償行動の反復
  • 過食性障害 反復する過食エピソード(代償行動なし)

11.排泄症群

Elimination Disorders

排尿または排便の不適切な場所での排泄を特徴とします。通常、発達的に適切な年齢を過ぎても症状が持続します。

  • 遺尿症 不適切な場所での繰り返される排尿
  • 遺糞症 不適切な場所での繰り返される排便

12.睡眠-覚醒障害群

Sleep-Wake Disorders

睡眠の質、タイミング、量に関する問題で、日中の苦痛や機能障害をもたらします。不眠、過眠、睡眠時の異常行動などが含まれます。

  • 不眠障害 入眠困難、睡眠維持困難、早朝覚醒
  • 過眠障害 過度の眠気と長時間睡眠
  • ナルコレプシー 繰り返される睡眠発作と情動脱力発作
  • 睡眠時随伴症群 睡眠中の異常行動(夢遊症、夜驚症など)

13.性機能不全群

Sexual Dysfunctions

性的反応サイクルの障害、または性行為に伴う苦痛を特徴とします。欲求、興奮、オーガズム、疼痛の各段階での問題が含まれます。

  • 勃起障害 勃起の獲得・維持の困難
  • 女性性的関心/興奮障害 性的関心や興奮の欠如・減少
  • オーガズム障害 オーガズムの遅延・不在・強度減少
  • 性交疼痛症 性交時の持続的な疼痛

14.性別違和

Gender Dysphoria

割り当てられた性別と経験している/表現している性別との間の顕著な不一致を特徴とします。これに関連する著しい苦痛や機能障害を伴います。

  • 性別違和(子ども) 子どもにおける性別の不一致と苦痛
  • 性別違和(青年・成人) 青年期以降における性別の不一致と苦痛

15.秩序破壊的・衝動制御・素行症群

Disruptive, Impulse-Control, and Conduct Disorders

情動や行動の自己制御における問題を特徴とします。他者の権利侵害、社会規範への違反、攻撃的行動などが見られます。

  • 反抗挑発症 怒りっぽく挑発的な行動パターン
  • 間欠性爆発症 攻撃的衝動の制御不能な爆発
  • 素行症 他者の権利侵害、社会規範への違反の反復
  • 放火症 故意に繰り返される放火行為
  • 窃盗症 不要な物を繰り返し盗む衝動

16.物質関連障害および嗜癖性障害群

Substance-Related and Addictive Disorders

物質(薬物、アルコールなど)の使用または行動(ギャンブルなど)に関連する問題を特徴とします。制御困難、社会的機能障害、身体的依存が見られます。

  • アルコール関連障害群 アルコール使用障害、アルコール中毒、離脱
  • カフェイン関連障害群 カフェイン中毒、カフェイン離脱
  • 大麻関連障害群 大麻使用障害、大麻中毒、離脱
  • オピオイド関連障害群 オピオイド使用障害、中毒、離脱
  • タバコ関連障害群 タバコ使用障害、タバコ離脱
  • ギャンブル障害 持続的で反復的な問題賭博行動

17.神経認知障害群

Neurocognitive Disorders

認知機能(記憶、言語、実行機能など)の著しい低下を特徴とします。脳の疾患、損傷、機能不全によって引き起こされます

  • せん妄 急性の意識障害と認知変化
  • アルツハイマー病による認知症 進行性の記憶障害と認知機能低下
  • 血管性認知症 脳血管障害による認知機能低下
  • レビー小体型認知症 幻視、パーキンソン症状を伴う認知症
  • 前頭側頭型認知症 人格変化、行動変化、言語障害

18.パーソナリティ障害群

Personality Disorders

広範で持続的な内的体験と行動のパターンが、文化的期待から著しく偏っており苦痛や機能障害をもたらします。青年期または早期成人期に始まります。

  • A群(奇異型) 妄想性、統合失調型、統合失調質パーソナリティ障害
  • B群(劇場型) 反社会性、境界性、演技性、自己愛性パーソナリティ障害
  • C群(不安型) 回避性、依存性、強迫性パーソナリティ障害

19.パラフィリア障害群

Paraphilic Disorders

異常な性的興奮パターンで、著しい苦痛や機能障害、または他者への危害を伴うものです。少なくとも6ヵ月以上持続します。

  • 窃視障害 他人の裸や性行為を覗くことによる性的興奮
  • 露出障害 他人に性器を露出することによる性的興奮
  • 小児性愛障害 思春期前の子どもへの性的興奮
  • 性的マゾヒズム障害/サディズム障害 屈辱・苦痛を受ける/与えることによる性的興奮

20.他の精神疾患群

Other Mental Disorders

他のカテゴリーに分類されない精神疾患、または他の医学的疾患によって引き起こされる精神症状を含みます。

  • 他の医学的疾患による精神疾患 身体疾患が原因の精神症状
  • 特定不能の精神疾患 明確な診断カテゴリーに当てはまらない症状

精神疾患について深く学びませんか?

コミュニティーに参加して、専門知識を持つ仲間と一緒に学びましょう。
専門家への質問や、最新の研究情報を共有できます。

無料で参加する