Pharmacokinetics & Pharmacodynamics
薬が体内でどう動き、どう作用するのかという薬理学の基礎について、ADME(吸収・分布・代謝・排泄)と受容体作用機序、CYP酵素を通じた薬物相互作用を詳しく解説します。
薬理学は大きく「薬物動態学」と「薬力学」の2つの視点から薬の働きを理解します。
薬物動態学は「体が薬をどう扱うか」、薬力学は「薬が体にどう働くか」と覚えると理解しやすくなります。
吸収とは、投与された薬物が血液中に取り込まれる過程です。
投与された薬物のうち、実際に全身循環に到達する割合を「バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)」と呼びます。静脈内投与ではほぼ100%ですが、経口投与では初回通過効果などにより低下します。
分布とは、血中に入った薬物が体内の各組織に運ばれる過程です。
向精神薬が効果を発揮するためには、血液脳関門を通過して脳内に到達する必要があります。この関門の性質が、薬物の脂溶性の高さと密接に関わっています。
代謝とは、体内に入った薬物が化学的に変化する過程で、主に肝臓で行われます。
経口投与された薬物は、消化管から吸収された後、門脈を経て肝臓に運ばれます。この際、全身循環に入る前に肝臓で代謝される現象を「初回通過効果」と呼びます。
初回通過効果が大きい薬物は、経口投与時に多くが代謝されてしまうため、注射に比べて効果が現れにくい、あるいは経口投与量を多く設定する必要があります。
一部の向精神薬は、代謝によって元の薬物よりも強い、あるいは異なる薬理作用を持つ「活性代謝物」に変換されます。例えば、リスペリドンの活性代謝物はパリペリドンです。
排泄とは、薬物やその代謝物が体外に排出される過程です。
高齢者や腎機能が低下している患者では、薬物の排泄が遅延し、血中濃度が高くなりやすくなります。リチウムなど腎排泄に依存する薬剤では特に注意が必要で、用量調整が求められます。
薬力学の中心となるのが、薬物がどのように受容体に作用するかという点です。
向精神薬が作用する主な神経伝達物質には、ドパミン、セロトニン、ノルアドレナリン、GABA、グルタミン酸、アセチルコリンなどがあります。これらのバランスが精神状態に大きく影響します。
肝臓での薬物代謝の多くは、シトクロムP450(CYP)と呼ばれる酵素群によって行われます。この酵素の働きが、薬物相互作用の重要な要因となります。
喫煙はCYP1A2を活性化させ、一部の向精神薬の血中濃度を低下させることがあります。また、グレープフルーツジュースはCYP3A4を阻害し、一部の薬物の血中濃度を上昇させることが知られています。処方薬だけでなく、嗜好品や食品との相互作用にも注意が必要です。
血中薬物濃度が半分になるまでの時間を「半減期」と呼びます。半減期が短い薬物は作用時間が短く、頻回の服用が必要になる一方、離脱症状が出やすい傾向があります。半減期が長い薬物は安定した血中濃度を保ちやすい一方、体内への蓄積や持ち越し効果に注意が必要です。
薬物を繰り返し投与すると、体内への薬物の蓄積と排泄がつり合った「定常状態」に達します。一般的に、半減期の4〜5倍の期間服用を続けることで定常状態に到達するとされています。
多くの向精神薬で「効果発現に数週間かかる」とされるのは、定常状態への到達に加え、受容体レベルでの適応変化にも時間を要するためです。
同じ薬物・同じ用量でも、効果や副作用の現れ方には個人差があります。
これらの個人差があるため、標準的な用量から開始し、効果や副作用を見ながら個々の患者に最適な用量へと調整していくことが、薬物療法の基本的な考え方となります。