Dissociative Disorders
意識、記憶、同一性、知覚の統合が一時的に失われる解離症群について、症状、原因、治療法を詳しく解説します。
解離症群(Dissociative Disorders)とは、通常は統合されている意識、記憶、同一性(アイデンティティ)、環境の知覚などが一時的に失われる、または変化する状態を特徴とする精神疾患の総称です。
解離は、耐え難いストレスやトラウマ体験から心を守るための防衛機制として働くことがあります。しかし、それが日常生活に支障をきたすレベルになると、解離症として診断されます。
解離(dissociation)とは、本来つながっているはずの意識や記憶、感覚などが切り離されてしまう現象です。軽度の解離は誰にでも起こりうる正常な現象ですが、重度になると日常生活に深刻な影響を及ぼします。
解離は連続体(スペクトラム)として理解されます:
解離は、圧倒的なストレスやトラウマから心を守るための心理的な防衛機制と考えられています。
耐え難い体験に直面したとき、脳は自動的にその体験から「距離を置く」ことで心を守ろうとします。記憶を切り離したり、感情を麻痺させたり、別の人格を作り出したりすることで、一時的に苦痛を回避します。
解離症は、以下のような要因によって引き起こされることが多いです:
特に幼少期の繰り返されるトラウマは、解離性同一症などの重度の解離症のリスク要因となります。幼い子どもは、トラウマに対処する心理的資源が限られているため、解離という防衛機制に頼りやすくなります。
DSM-5では、以下の主要な解離症が定義されています。それぞれ異なる症状パターンを持ちますが、共通して「統合の障害」という特徴があります。
2つ以上の distinct な人格状態が存在し、それぞれが異なる思考・感情・行動パターンを持つ
重要な個人的情報(通常はトラウマ的・ストレスフルな出来事)を思い出せない
自分自身や周囲の世界が非現実的に感じられる持続的または反復的な体験
自宅や職場から突然姿を消し、自分が誰であるか思い出せなくなる
解離性同一症(Dissociative Identity Disorder: DID)は、以前は「多重人格障害」と呼ばれていた障害で、2つ以上の明確に区別される人格状態が存在することを特徴とします。
それぞれの人格状態は、環境や自己の体験・知覚・概念化・関係のパターンにおいて、比較的持続する独自の方法を持っています。
日常の出来事、重要な個人情報、トラウマ的出来事などの想起に繰り返し空白が生じます。これは通常の物忘れでは説明できません。
症状により、社会的・職業的またはその他の重要な領域において、臨床的に意味のある苦痛または機能の障害が引き起こされます。
DIDにおける「人格状態」(alter)は、それぞれ独自の名前、年齢、性別、性格、記憶、能力を持つことがあります。ある人格状態が表に出ているとき、他の人格状態の記憶にアクセスできないことが多く、これが「時間の欠損」につながります。
DIDの「内的な声」は、統合失調症の幻聴とは異なります。DIDでは声が内側から来ると感じられ、それぞれの人格状態の考えとして認識されます。統合失調症の幻聴は外部から聞こえてくるように体験されます。
解離性健忘は、重要な個人的情報(通常はトラウマ的またはストレスフルな性質のもの)を思い出せない状態で、通常の物忘れでは説明できないものです。
特定の期間(通常は数時間から数日)の出来事を思い出せません。
例:交通事故の当日のことを全く覚えていない
特定期間の一部の出来事は覚えているが、他の出来事は思い出せません。
例:暴行を受けた日のことは部分的に覚えているが、暴行そのものの記憶がない
自分の生涯全体、同一性、個人史を思い出せません。
例:自分が誰なのか、どこから来たのか全く分からない
特定のカテゴリーの情報(例:特定の人物や場所に関する記憶)を思い出せません。
新しい情報を記憶できず、出来事が起こると同時に忘れてしまいます。
解離性健忘の一種で、自宅や職場から予期せず離れ、過去を思い出せなくなります。まれに新しい同一性を仮定することもあります。DSM-5では解離性健忘の一亜型として分類されています。
離人感・現実感消失症は、自分自身(離人感)や周囲の世界(現実感消失)が非現実的に感じられる持続的または反復的な体験を特徴とします。
自分自身が非現実的、遠く、または自分のものではないように感じられる体験です。
周囲の世界が非現実的、遠い、歪んでいる、または霧がかかったように感じられる体験です。
重要なことに、この障害では現実検討能力は保たれています。つまり、患者さんは「自分が非現実的に感じる」という自覚があり、実際に現実が変化しているとは考えていません。これが精神病性障害との重要な違いです。
解離症の診断は、以下のステップで行われます:
解離症と似た症状を示す他の疾患を除外する必要があります:
解離症、特にDIDの診断は非常に困難です。患者さん自身が症状を隠す傾向があり、また他の精神疾患との併存も多いためです。専門的なトレーニングを受けた精神科医による慎重な評価が必要です。
解離症の治療は、主に心理療法が中心となります。薬物療法は補助的な役割を果たします。
トラウマ記憶の処理と、解離症状への対処スキルの習得を目指します。
トラウマ記憶の処理に効果的な技法です。
特にBPDと併存する解離症に有効です。
DIDでは、以下の段階的なアプローチが推奨されます:
第1段階:安全と安定化
第2段階:トラウマの処理
第3段階:統合と再適応
DIDの治療目標として「人格状態の統合」がしばしば挙げられますが、これは必ずしも全ての人格が1つに融合することを意味しません。むしろ、人格状態間の協力関係を築き、記憶を共有し、日常生活の機能を回復することが重要です。
解離症状が起きたときに「今、ここ」に戻るための技法です。
解離症状そのものに対する特効薬はありませんが、併存症状の治療に用いられます。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、依存のリスクがあるため慎重に使用します。また、解離症の患者さんは薬物の効果が不安定なことがあるため、低用量から開始し慎重に調整します。
DIDの場合、異なる人格状態それぞれに対して一貫した尊重と受容を示すことが重要です。特定の人格状態を否定したり、無視したりすることは避けましょう。同時に、問題行動については適切な境界線を設定することも必要です。